大判例

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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)3号 判決 1992年2月04日

東京都新宿区西新宿三丁目七番二六号

原告

大野家建

右訴訟代理人弁護士

戸田善一郎

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

桐本勲

松木禎夫

宮崎勝義

主文

特許庁が昭和六〇年審判第一九八九四号事件について平成元年一一月六日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 原告

出願日 昭和五五年八月二〇日(昭和五五年特許願第一一四四〇一号)

発明の名称 「加工方法及びその装置」

昭和五八年六月二〇日付拒絶理由通知 昭和五八年七月二六日発送

実用新案登録願への変更 昭和五八年九月五日(実願昭五八-一三七五四五号、考案の名称「研磨加工装置」)

昭和五九年五月一六日付拒絶理由通知 昭和五九年七月三日発送

拒絶査定 昭和六〇年八月一四日

審判請求 昭和六〇年一〇月八日(昭和六〇年審判第一九八九四号事件)

平成元年三月一七日付拒絶理由通知 平成元年四月四日発送

意見書提出期限延期の上申 平成元年六月五日

意見書提出 平成元年六月一九日

審判請求不成立審決 平成元年一一月六日

二  本願考案の要旨

1  回転ドラム等の回動支持体に対して該回動支持体の離心位置に外筒と内筒からなる二重筒状の槽本体を回動自在に且つ水平又有角度に軸設し、上記槽本体と回動支持体をそれぞれ独立したモーター等の回転駆動装置と適宜回動伝達機構を介して連結すると共に、上記内筒の出口近傍には適当数の孔を設けて成り、且つ該内筒の入口側端部は材料供給部から連結した投入口シュートの端部を回動自在に連結し、又出口側端部には上記回動支持体と同軸上回動枢支したパイプ状の排口シュート端部を回動自在に連結して成ることを特徴とする研磨加工装置。

2  前記内筒の内周面または外筒の内周面に、あるいは内筒の内周面および外筒の内周面に凹凸部、リブまたは刷毛状物を形成して成ることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の研磨加工装置。

3  前記槽本体内周面に形成した凹凸部、リブまたは刷毛状物が螺旋状構造を形成して成ることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項及び第2項記載の研磨加工装置。

(別紙一参照。)

三  審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

2  これに対して、平成一年三月一七日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、期間内に請求人(原告)からは何らの応答もない。

そして、右の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願はこの拒絶理由によって拒絶すべきものである。

四  審決の取消事由

1  取消事由一

審決は、第一引用例(特開昭五五-三七二八五号公報。別紙二参照。)、第二引用例(実公昭四六-二八七九七号公報。別紙三参照。)及び第三引用例(特公昭五三-四四七一五号公報。別紙四参照。)とを示し、第一引用例については本願考案の全体的構成に適用し、第二引用例については槽を公転させるとともに自転させている点を参照し、第三引用例については槽を二重筒状とすることを参照することと述べて、これらの刊行物に記載された発明、考案に基づけば本願考案には進歩性がないとして拒絶したのである。

この第二引用例及び第三引用例は審査の段階で引用例として掲げられていたが、第一引用例は審査の段階で引用例として掲げられることがなく審判の段階になって平成元年三月一七日付けの拒絶理由通知書において初めて引用例として掲げられ、審判請求人たる原告に意見弁解をなすべき機会が与えられたが、原告は、このとき米国、カナダ、台湾に長期にわたって重要な業務上の用件で出張していたため該通知書を現実に入手したのが平成元年六月二日であったので、弁理士に代理人を依頼し、代理人が意見書提出の満了日たる同月五日に「都合で同月一九日までに意見書を提出する」旨の上申書を特許庁に提出した。実用新案法四一条、特許法一五九条二項、五〇条にいう「相当の期間」は不変期間ではなく裁量期間にすぎないにも拘らず、特許庁長官書記課は「上申の趣旨認めず」との冷淡、苛酷な回答をして、審判請求人たる原告の第一引用例に対する意見弁解を述べる機会を失わせて、原告の「審問を求める権利」を奪い去ったものであり、審決は、審判手続に重大な違法が存在する。なお、特許庁の慣例では、拒絶理由通知書に「発送の日から」とある場合、該通知書を受け取った日の翌日から起算することになっており、平成元年六月五日が意見書の提出期間の最終日である。

よって、審決は取り消されるべきものである。

なお、上申書を受理しないとした右特許庁長官書記課の行為は、同課が行政庁に該当せず、公権力の行使でもないから、行政庁の処分には当たらない。仮に、右行為が行政庁の処分たる行政行為に該当するとしても、上申書を受理しないというだけでは未だ出願人の審問権を侵害したというまでには至らず、最終処分たる審判請求不成立審決によって初めて国民の権利利益に対して法律上の効果を生ずるものであるから、右特許庁長官書記課の行為は独立して不服申立の対象とすることはできず、原告が行政不服審査法により不服申立をしなかったことは正当である。

2  取消事由二

審決は、第一ないし第三引用例から本願考案の進歩性を誤って否定したものであり、違法として取り消されるべきである。

この点に関する、後記の被告の主張(第三、二)に対する原告の主張は次のとおりである。

(一) 被告の主張第三の二1及び同2(一)は認める。同(二)及び(三)は争う。同3は、本願考案と第一引用例に記載された考案との対応関係の認定、一致点、相違点一及び四の認定は認め、その余は争う。同4及び同5は争う。

(二)(1) 第二引用例の記載内容について

第二引用例に記載された考案は、フレーム1、2へ主軸3を架設し、主軸3ヘターレット4、5を固着し、ターレット4、5ヘバレルを取り付けるにあたり、バレルの公転半径をRとし、バレルの内接円半径をrとしたときにrの異なるバレルを交換可能に取り付けられるようにするか、ターレット4、5へ主軸3に向って放射状に長溝16を等間隔に設け、この長溝16にバレルの軸18を挿通し、バレルの取付位置を任意に選定して軸受を固定し、公転半径Rを変化させるようにしてR/rを調節し、主軸、ターレット及びバレルの軸へバレルを自転させる装置を付設してなる遊星旋回式バレル研磨装置であり、原動機とギヤー13又は14とを連動させると、主軸3が回転し、これに伴ってターレット4、5、14、15が回転するので、ギヤー8、25、9とギヤー22、26、23の連動によってバレルケース10又はバレル17は自転する。

被告の第二引用例の記載内容についての認定は、同考案の要旨の従属的部分を取り上げて、しかもそれを拡大要約しているものであるから、これを認めることはできない。

(2) 第三引用例の記載内容について

第三引用例記載の考案は、被処理物に粉状、塊状、又は片状処理材を混入し、攪拌する表面処理装置であって、水平又は傾斜して設けられ、その後端に還送処理材出口を持つ外筒、この外筒を同軸で回転し、後端に被処理物入口、前端にその出口、そしてその出口の直後に処理材だけ外筒内面へ落とす籠構造をもつ内筒、この内筒の前記入口から入る被処理物と前記処理材出口から出た処理材とを攪拌しつつ内筒前方へ進める内筒攪拌羽根、及び前記内筒の外周面に固定された前記籠構造から落ちた処理材を内外筒間隙を通路として前記処理材出口へ還送する還送用羽根とを備えることを特徴とする連続表面処理装置に関する考案であり、被処理物はパチンコの玉である。そして、第三引用例記載の考案が内筒と外筒との二重筒の構成を採用したのは、混入する処理材を被表面処理物に混入し、被表面処理物から分離し、還送し、被表面処理物に再混入して以て処理材を循環して連続使用することを主たる目的として考案されたものであ。

被告の第三引用例の記載内容についての認定は、本願考案と対比するために必要な構成部分を具体的に言及せず、しかも誤った認定を含むものであるから、これを認めることはできない。

(3) 相違点二の認定について

本願考案と第一引用例記載の考案との相違に関し、被告が相違点二として認定する両者の相違は、被告がいうがごとき漠然としたものではなく、その相違は極めて明白である。

すなわち、本願考案では研磨槽(槽本体1)の端部が回動支持体(回動体2)の外側に突出しているのに対し、第一引用例の考案では槽本体(研磨槽1)の端部は回動支持体(クランクアーム)の内側に止まり、その外側に突出していないという構成上の相違があり、さればこそ本願考案では投入口シュート19が研磨槽と共に公転してもはずれることなく、回動支持体に絡まることなく、研磨槽の自転を妨げることなく、突出している研磨槽に回動自在に嵌合(連結)されているという構成となっているのに対し、第一引用例記載の考案では蛇腹の投入口17(投入口シュート)は槽本体に回動自在に嵌合されているのではなく、槽本体に固定されているという構成を採用して両者間には根本的な相違がある。

(4) 相違点三の認定について

本願考案と第一引用例記載の考案との相違に関し、被告が相違点三として認定する両者の相違も、被告がいうがごとき漠然としたものではなく、その相違は極めて明白である。

すなわち、本願考案では、クランク形をした排出口シュート20は、その右端部において回動自在に軸支されており、回動支持体の回転中心軸の延長線上の同じ回転中心軸のまわりに回転できるように構成されていて、排出口シュート20の左端部は研磨槽の右端部に回動自在に連結されているので、回動支持体が回転すると排出口シュート20もこれと同期して右端部分を中心として回転し、研磨槽の公転及び自転を何ら妨げることなく研磨槽からの被研磨物等を受け取ることができるように構成されている(なお、このように排出口シュート20の近傍部の構成を投入口シュート19の近傍部の構成と若干異ならしめているが、これは排出口シュート20の左端部の筒中心軸の位置を、研磨槽の筒中心軸の位置より偏心させており、研磨槽から排出口シュート20への被研磨物等の受渡しの能率を高めるためである。)のに対し、第一引用例では、排出口シュートは存在せず、被研磨物等は研磨槽から直に装置外に排出されるものである。

(5) 相違点一に対する判断について

本願考案は、槽本体(バレル)と回動支持体(ターレット)をそれぞれ独立したモーター等の回転駆動装置と適宜回動伝達機構を介して連結しているのに対し、第二引用例記載の考案の場合は、バレル(槽本体)とターレット(回動支持体)とは一組の回動伝達機構を介して連結されていて、自転速度と公転速度との関係が一定の比率に固定されていて、それぞれ独立して任意の速度で回転させることはできない。

したがって、第二引用例記載の考案における回動伝達機構を第一引用例記載の考案における槽本体と回動支持体との間に介在させても、本願考案のごとくにはならず、この点に関する被告の主張は理由がない。

(6) 相違点二及び三に対する判断について

第一引用例記載の考案では、投入口シュート等の物品供給用の管状体の捩じれ、変形を阻止するために、蛇腹のごとき原始的な構造の投入口シュートを採用し、しかもかかる投入口シュートを研磨槽に固定させたために研磨槽は常に上方を向いて円運動を行わざるを得ない(いわゆる自転しているかにみえるが固定座標系からみての自転は生じない)、したがって、研磨槽の研磨速度を任意に変えることができないのに対し、本願考案では槽本体を回動支持体の外側に突出せしめる構成を採用したがために、突出せしめた槽本体に投入口シュートを回動自在に連結せしめるという新規な投入口シュートを用いたので、槽本体を自転せしめることが可能になり、しかも槽本体と回動支持体とはそれぞれ独立の駆動装置により回転せしめるという技術手段をも採用することができるようになり、槽本体の自転速度を槽本体の公転速度とは無関係に独立して設定、変更することを可能ならしめ適切な研磨速度たらしめて、有効な研磨作用を行うという大きな作用効果を上げることができるようになったものであり、このような本願考案の技術的事項を当然の技術的事項であるとすることはできない。

また、「投入口シュートの端部を回動自在に連結した点及び出口側端部に排出口シュートを連結するにあたり、それを回動自在とし、排出口シュートを回動支持体と同軸上回動枢支したパイプ状のものとした点」については、遡及出願日昭和五五年八月二〇日特許願の明細書添付の第1図、第3図及び第4図(別紙一第1図、第3図及び第4図)に明らかに示されており、出願当初の明細書あるいは図面に記載のないことを理由とする被告の主張は失当である。

更に、本願考案の排出口シュートは、回転する研磨槽に回動自在に嵌合し、しかも研磨槽と共に公転してもはずれることなく、研磨槽の自転を妨げることなく、回動支持体に絡まることなく、しかも研磨槽から排出口シュートへの被研磨物等の受渡しの能率、排出の能率を高める技術手段までをも考慮に入れた構成まで工夫されているにも拘らず、第一引用例に記載された考案が供えている槽本体の入口側端部に設けられた投入口シュートと同様なシュートを出口側端部に連結して本願考案のごとく構成することは当業者が極めて容易に考えることができる設計変更にすぎないなどと被告が述べるのは、第一引用例記載の考案における投入口シュートは本願考案における投入口シュートが研磨槽に回動自在に連結されているのとは根本的に異なっていることを充分に確実に把握、理解していないためであり、失当である。

(7) 相違点四に対する判断について

本願考案の外筒と内筒からなる二重筒状の槽本体と第三引用例のそれとでは、<1>本願考案では研磨槽本体の内筒及び外筒の端部は回動支持体の外側へ突出しているのに対し、第三引用例の場合には、内筒及び外筒が公転しないので、それを支える回動支持体なるものは存在しない、<2>本願考案では外筒及び内筒は公転及び自転するのに対し、第三引用例の場合は外筒は公転も自転もせず、内筒が自転のみし、しかも回転軸、内筒及び還送羽根、回転軸に固定して取り付けられた送り羽根(螺旋羽根)が全て一体となって自転するにすぎない、<3>本願考案では、内筒内部の被研磨物と研磨材との混合物の軸方向の移動速度並びに内筒の外周面と外筒の内周面との間隙部分にある研磨材の軸方向に還送速度は外筒、内筒の公転、自転により合成された回転速度できまり、したがって、公転速度あるいは、及び自転速度を適宜調節することによってこれらの移動速度、還送速度を大幅な範囲に適宜調整することが可能であるのに対し、第三引用例の場合では、内筒内の被表面処理物と処理材との混合物の移動速度と内筒の外周面と外筒の内周面との間隙部分にある研磨材の軸方向に還送速度は専ら回転軸、内筒、回転軸に固定して取り付けられた送り螺旋羽根の自転速度のみによって決まるものにすぎない、<4>本願考案では、内筒の出口近傍に移動した被研磨物と研磨材とは内筒の周面に設けられた孔によって自動的に選別分離されて被研磨物は排出口シュートから取り出され、研磨材は内筒の公転による遠心力の作用により孔から外筒の内周面と内筒の外周面との間隙部分の遠心方向に押し出されてから投入口側へ還送され再度内筒へ移動されるものであるのに対し、第三引用例では、内筒前端の出口の手前にある籠構造部分において、該籠部分の構造が間隔をあけた多数の丸棒をフランジによって固定したもので、丸棒間間隔は玉が脱落せず処理材だけが重力により下方へ脱落する構造となっていている、<5>本願考案では孔より外筒の内周面と内筒の外周面との間隙に遠心力の作用により押し出された研磨材は公転、自転による遠心力の作用により入口方向へ還送され自ら内筒内に押し込まれるのに対し、第三引用例の場合は、玉(被表面処理物)と処理材が内筒の入口に達すると回転アームの三本の腕につけた三枚の羽根によりすくい上げられ、腕の間から内筒に入り込むものである、<6>本願考案では研磨槽本体が自転するのみならず公転するので遠心力が大きく、この遠心力の作用により被研磨物及び研磨材が内筒内で内筒内壁に沿って周方向に移動すると同時に遠心力の作用により研磨作用が行われているのに対し、第三引用例の場合は、回転軸に取り付けられた羽根が回転軸と内筒と一体となって自転するだけであって公転がないから遠心力が極めて小さいので、重力の作用により内筒の底部に存在する被表面処理物と処理材とが内筒の前端部の下方へ押しやられるだけで、ただその際副次的に表面処理(表面の清掃)が僅かに行われるにすぎず、本格的な表面処理作用は到底期待し得ない、等の顕著な相達が存在し、この重大、顕著な相違点のみからしても、本願考案には進歩性が存在しないということはできない。

(8) 作用効果の顕著性について

以上に述べた点からすれば、本願考案は第一引用例、第二引用例及び第三引用例記載の各考案の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものであることは極めて明らかである。

(9) 実施態様項を審判の対象としなかった審理不盡の違法

審決は、本願考案の実用新案登録請求の範囲第1項の必須要件項について進歩性なきものと判断した場合には、第2項、第3項の実施態様項について順次に審判の対象としなければならなかったにも拘らず、第2項、第3項の実施態様項について順次審判の対象としなかったものであり、審理不盡の違法がある。

第三  請求の原因に対する認否および被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。

二  本願を拒絶すべき理由

1  本願考案の要旨は原告主張のとおりである。

2  いずれも本願考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物である第一引用例(特開昭五五-三七二八五号公報)及び第二引用例(実公昭四六-二八七九七号公報)には、それぞれ次の考案が記載されている。

(一) 第一引用例

回転するクランクアームの離心位置に、その両端部に入口と出口とを備えた円筒形の研磨槽を回動自在に、かつ、水平又は有角度に軸設し、研磨槽とクランクアームを回転駆動するモータ、すなわち、回転駆動装置を備え、該研磨槽の入口側端部には材料供給部から連通した蛇膜の投入口の端部を連結した研磨装置。

そして、第一引用例に記載された考案において、研磨槽が、その両端部に入口と出口を備えているとした点については、第一引用例の一頁左下欄一五行ないし一八行における「槽の一端部より投入した被研磨物等が、その遠心力により流動研磨されて自動的に他端へ排出されるようにした」及び二頁右上欄三行ないし九行における「被研磨物および研磨材等を第1図に示す研磨槽1の左端に示す蛇膜の投入口17より投入すれば遠心力により槽内面を螺旋運動しながら流動し、自動的に研磨されて他端より取出される。また研磨槽1が水平の場合でも、投入口17より研磨材と被研磨物を投入12続けることにより、その重力で押されながら槽内を他端へ移動する。」という記載からみて明らかである。

(二) 第二引用例

ターレットの離心位置にバレルを回動自在に、かつ、水平に軸設し、該バレルと該ターレットとを相対的に回転させる回動伝達機構を介して連結した遊星旋回するバレル研磨機。

(三) 第三引用例

外筒と内筒からなる二重筒状の槽本体を有角度に軸設し、該内筒の出口近傍には適当数の孔を設けてなる研磨装置。

3  本願考案と第一引用例に記載された考案とを比較すると、第一引用例に記載された考案における「回転するクランクアーム」、「円筒形の研磨槽」、「蛇膜の投入口」及び「研磨装置」は、それぞれ本願考案における「回動支持体」、「筒状の槽本体」、「投入口シュート」及び「研磨加工装置」に対応するものであり、次の相違点を除いて、両者は、回動支持体の離心位置に、その両端部に入口と出口とを備えた筒状の槽本体を回動自在に、かつ、水平又は有角度に軸設し、該槽本体の入口側端部には材料供給部から連通した投入口シュートの端部を連結した研磨加工装置である点で一致している。

相違点一 本願考案が、槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結しているのに対して、第一引用例に記載された考案がこれに対応する構成を具備していない点

相違点二 槽本体の入口側端部に投入口シュートの端部を連結するにあたり、本願考案では回動自在としているのに対して、第一引用例に記載された考案ではこれに対応する構成について明確にされていない点

相違点三 槽本体の出口側端部において、本願考案では回動支持体と同軸上回動枢支したパイプ状の排出口端部を回動自在に連結しているのに対して、第一引用例に記載された考案ではこれに対応する構成について明確にされていない点

相違点四 槽本体について、本願考案においては外筒と内筒からなる二重筒状のものとしているのに対して、第一引用例に記載された考案においては単筒状のものである点

4一 相違点一に対する判断

第一引用例及び第二引用例に記載された考案は、共に回動支持体の離心位置に筒状の槽本体を回動自在に軸設した研磨加工装置であって、同一の技術分野に属するものである。

したがって、第二引用例に記載された考案における回動伝達機構を第一引用例に記載された考案における槽本体と支持体との間に介在させることにより、この相違点において掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者が極めて容易に考えることのできたものである。

二  相違点二及び三に対する判断

投入口シュートの端部を槽本体の入口側端部に連結するにあたり、第一引用例に記載された考案ではその連結態様が明らかでないが、投入口シュート等の物品供給用の管状体を回転する槽本体等の部材に連結する際には、管状体の捩じれ、変形を阻止するために回動自在に連結することは当然の技術的事項であり、また、投入口シュートの端部を回動自在に連結した点及び出口側端部に排出口シュートを連結するにあたり、それを回動自在とし、排出口シュートを回動支持体と同軸上回動枢支したパイプ状のものとした点については出願当初の明細書あるいは図面に何ら記載のないことからしても、投入口シュートの端部を槽本体の入口側端部に回動自在に連結することは格別な意味のある技術的事項とはいえず、この点は単なる設計上の問題にすぎないものである。

また、出口端部に排出口シュートを設けた点は、第一引用例に記載された考案の研磨装置も「槽の一端部より投入した被研磨物等が、その遠心力により流動研磨されて自動的に他端へ排出されるようにした」ものであることからして、その目的を達成するためには、第一引用例に記載された考案が備えている槽本体の入口側端部に連結して設けられたシュートと同様なシュートを出口端部に設けてこの相違点において掲げた本件考案のごとくすることは、当業者が極めて容易に考えることができる設計変更にすぎないものである。

(三) 相違点四に対する判断

第一引用例及び第三引用例に記載された各考案は、共に筒状の槽本体を備えた研磨加工装置であって、同一の技術分野に属するものである。

したがって、第三引用例に記載された考案における外筒と内筒からなる二重筒状の槽本体を第一引用例に記載された考案における単筒状の槽本体に換えて用いることにより、この相違点に掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者が極めて容易に考えることができたものである。

(四) 作用効果の顕著性

本件考案を全体としてみても、第一引用例、第二引用例及び第三引用例にそれぞれ記載された各考案の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。

5 以上のとおり、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、実用新案法三条二項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

三  取消事由一について

1  意見書提出のために相当の期間を指定する趣旨は、その期間をあまり長くすると審理を進めることができず、ひいては審理の遅延を招くことになるため、期間の指定には実務経験からみて意見書提出にふさわしい期間として、かつその最良に公平を期するために基準を設け、この基準に沿って期間を指定することとし、手続をする者が国内居住者の場合には六〇日、在外者である場合には三か月としている。そして、意見書提出期間を含む指定期間については、実用新案法五五条において特許法五条の規定に基づき、請求により又は職権でその期間を延長することができるものであり、正当な理由があれば、意見書提出の指定期間の延長は許されているところである。例えば、意見書の作成に必要な謄本又は抄本の交付を特許庁に請求した場合には、謄本又は抄本の発送の日から二三日間延長し、又、在外者である場合には三か月の指定期間は請求により三か月以内に限り延長することができる取扱いをしている。

2  これを本件についてみると、正式な期間延長の請求はなされておらず、また期間を延長するについての正当な理由があるとも理解し得ないものであり、また職権による期間延長の必要性も認められなかったものである。

すなわち、原告は、平成元年六月五日付けで、「本件については本日意見書を提出すべきところ、都合により来たる六月一九日までに必ず提出いたしますので、宜しくお願い致します。」との事項を上申の内容とする特許庁長官宛の上申書(甲第一〇号証)を提出し、その後の平成元年六月一九日付けで意見書(甲第一六号証)を提出したものであるところ、右上申書は、行政庁たる特許庁長官により「上申の趣旨認めず。」との理由で受理しない旨の行政処分がなされたものである(甲第一一号証)。

右の上申書の内容をもってしては、意見書提出の指定期間の延長請求を意図するのか、本件審判請求についての審理またはその終結等の手続きの停止の申し出を意図するのか、更にはその他の何らかの内容を意図しているのか、必ずしも明らかでない。そして、右上申書を意見書提出期間の延長請求を意図するものとみた場合には、同上申書は正式な期間延長請求ではなく、また、指定期間の経過後のものであり(期間の計算につき、実用新案法五五条一項が準用する特許法三条の規定によれば、期間の初日は、期間が午前零時から始まるときを除き、算入しないものであり、「本書発送の日から六〇日以内」とされた本件における平成元年三月一七日付け拒絶理由通知(発送日は平成元年四月四日)の指定期間の満了日は平成元年六月三日(土曜日)である。)、一方、右上申書を手続の停止の申し出とみた場合には、その正当な理由や法制上の根拠がないものであり、いずれにしても、右上申書は、受理することのできないものであった。

なお、審決は、意見書提出期間軽過後に提出された右意見書を閲読し、その内容も含めて審理、判断したものである。

四  取消事由二について

原告は、相達点一に関し、第二引用例ではバレルの自転速度をバレルの公転とは無関係に独立して変更できないと主張する

しかし、第二引用例においては、回動伝達機構はターレットを支持している主軸に固着されたギヤーとバレルの軸に固着されたギヤーとそれらの間に存在する遊びギヤーとからなる歯車列で構成されており、これらの歯数をそれぞれ換えることによってバレルとターレットとの相対回転を広範囲に変化させること、すなわち、バレル及びターレットの自転数及び公転数を広範囲に変化させることがその明細書及び図面に示されている。また、ターレットを支持している主軸に固着されたギヤーとバレルの軸に固着されたギヤーとの間に遊びギヤーが存在することからして、ターレットを支持している主軸に固着されたギヤーとバレルの軸に固着されたギヤーとを交換したときに軸間距離を考慮することなく任意の歯数を選択することができる。したがって、バレルの自転速度と公転速度とを広範囲に変更することができるものであるから、これらの速度を実質的に自由に変更できるものである。

のみならず、本願考案の出願当初の明細書及び図面には、本願考案の相違点一の構成である槽本体と回動支持体をそれぞれ独立した駆動源である二つのモーターでそれらを駆動するものが示されておらず、単に一つのモーターでそれらのものを駆動するものが示されているにすぎない。

なお、実施態様項は、必須要件項あるいは他の実施態様項を引用して、必須要件項に記載の考案の実施態様を記載した請求項であり、そこに記載された技術的事項は必須要件項に記載された技術的事項に包含されているのであるから、本願考案の要旨を必須要件項に基づいて認定し、その進歩性の有無について判断した審決には審理不盡の違法はない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  取消事由一に対する判断

当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決は、平成元年三月一七日付拒絶理由通知書の拒絶理由を妥当なものと認め、本願考案の実用新案登録を拒絶すべきものとして、審判請求不成立の判断をしたものであるところ、成立に争いのない甲第二号証(平成元年三月一七日付拒絶理由通知書)によれば、右拒絶理由は、第一引用例(特開昭五五-三七二八五号公報。別紙二参照。)、第二引用例(実公昭四六-二八七九七号公報。別紙三参照。)及び第三引用例(特公昭五三-四四七一五号公報。別紙四参照。)を示し、「第一引用例については、本願考案の全体的構成に適用し、第二引用例については、槽を公転させると共に自転させている点を参照し、第三引用例については、槽を二重筒状とした点を参照すること。」と述べ、本願考案はこれらの刊行物に記載された考案に基づけば進歩性がないとしたものであることが認められる。

更に、前掲甲第二号証、いずれも成立に争いのない同第四号証(昭和五八年六月二〇日付拒絶理由通知書)、同第六号証(昭和五九年五月一六日付拒絶理由通知書)、同第七号証(昭和六〇年八月一四日付拒絶査定謄本)、同第一〇号証(上申書)及び同第一一号証(不受理処分通知書)によれば、第二引用例及び第三引用例は審査の段階で引用例として掲げられていたが、第一引用例は審査の段階で引用例として掲げられることがなく審判の段階になって平成元年三月一七日付けの拒絶理由通知書において初めて引用例として掲げられ、同通知書には「これについて意見があれば、本書発送の日から六〇日以内に意見書を提出されたい。」との文言が記載されて、審判請求人たる原告に意見弁解をなすべき機会が与えられたこと、しかして、同通知書の発送日は平成元年四月四日であること、その後の平成元年六月五日、原告は「本件については本日意見書提出すべきところ、都合により来たる六月一九日までに必ず提出いたしますので、宜しくお願い致します。」と記載した上申書を特許庁長官に提出したのに対し、特許庁長官は、平成元年七月一〇日、「上申の趣旨認めず。」との理由を付した右上申書不受理の通知を原告に対してなし、同通知書には「なお、この処分について不服のある者は、この書面を受け取った日の翌日から起算して六〇日以内に、特許庁長官に対して、行政不服審査法による異議申立をすることができます。」との記載が付されていたことが認められる。

右において、原告のなした上申書の提出は意見書提出期間の延長請求と認めるべきところ、行政庁たる特許庁長官は、「上申の趣旨認めず。」との上申書不受理の通知により、同請求を却下する行政処分をなし、併せて行政不服審査法に基づく同処分に対する不服申立方法及び申立期間を教示したことが認められるから、原告は、右行政処分の効力を争うためには、その定められた行政不服審査法による異議申立手続によるべきであり、本件訴訟においてその適法性を争うことは許されない。しかして、右行政処分に対しては同法による異議申立がなされることなくその申立期間が経過したことは弁論の全趣旨により明らかであるから、平成元年三月一七日付拒絶理由通知書の拒絶理由に対する意見書の提出期限である同年六月三日(実用新案法五五条一項が準用する特許法三条の規定に基づき、同通知書の発送の日である平成元年四月四日の翌日から六〇日を経過した日)以降に提出された意見書については、これを特許庁が適宜参考とすることは格別、これを考慮することなく審決をなしたとしても、そのことにより直ちに審決が違法となるものではない。

なお、原告は、特許庁の慣例では、拒絶理由通知書に「発送の日から」とある場合、該通知書を受け取った日の翌日から起算することになっている旨主張するが、そのような慣例を認めるべき証拠はなく、同主張は採用できない。また、原告は、上申書を受理しないとした行為は「特許庁長官書記課」の行為であって行政庁の処分には当たらない旨、及び、仮にこれが行政処分に該当するとしても、独立して不服申立の対象とすることはできない旨主張するが、これらの主張は、いずれも原告独自の見解として、当裁判所の採用するところではない。

よって、取消事由一は理由がない。

三  取消事由二に対する判断

1  本願考案の要旨は前認定のとおりであるところ、いずれも成立に争いのない甲第五号証(本願考案の出願当初の明細書。以下、「本願当初明細書」という。)、甲第九号証(昭和六〇年一〇月八日付手続補正書)及び甲第一五号証(昭和五九年八月一二日付手続補正書)によれば、本願考案は、機械部品、工業部品等の研磨加工装置に関するものであり、外筒及び内筒からなる二重構造の槽を、回転ドラム等その他任意の形状の回動体で水平もしくは斜めに支承し、この回動体を任意適当に公転運動させ、更に必要に応じて槽自体をも任意自転させることによって、槽の一端より投入した被研磨物等の被加工物が研磨材等の加工材料とともに槽内に送入され、摺動、摩擦、流動されながら移動して有効に研磨加工され、被加工物は出口へ、また研磨材等の加工材は内筒周面に設けた孔より外筒へ落下し、蓄積されて再度入口へ移動して還元せしめることで、研磨材等を再使用することのできるような加工方法を実施する装置を提供しようとするものであることが認められる。

2  第一引用例の記載内容が被告主張のとおりであること、同引用例に記載された考案における「回転するクランクアーム」、「円筒形の研磨槽」、「蛇膜の投入口」及び「研磨装置」は、それぞれ本願考案における「回動支持体」、「筒状の槽本体」、「投入口シユート」及び「研磨加工装置」に対応すること、及び、同引用例に記載された考案と本願考案とは、回動支持体の離心位置に、その両端部に入口と出口とを備えた筒状の槽本体を回動自在に、かつ、水平又は有角度に軸設し、該槽本体の入口側端部には材料供給部から連通した投入口シュートの端部を連結した研磨加工装置である点で一致し、本願考案が、槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結しているのに対して、第一引用例に記載された考案がこれに対応する構成を具備していない点で相違する点(相違点一)が相違点の一つであることについては、当事者間に争いがない。

3  被告は、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案できた旨主張し、右相違点一に関しては、第二引用例に記載された考案における回動伝達機構を第一引用例に記載された考案における槽本体と支持体との間に介在させることにより、相違点一において掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者が極めて容易に考えることのできたものである旨主張するので、以下判断する。

(一)  本願考案の相違点一に関する構成の詳細及びその技術的意義

本願考案が、槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結している点について、前掲甲第五号証、同第九号証及び同第一五号証によれば、昭和五九年八月一二日付及び昭和六〇年一〇月八日付各手続補正書により補正された本願当初明細書には「回動体を任意適当に公転運動せしめ、さらに必要に応じて槽自体をも任意自転せしめることによって、槽の一端より投入した被研磨物等の被加工物が加工材または研磨材とともに槽内に送入され、摺動、摩擦、流動されながら移動して有効に研磨加工され、」との記載(甲第五号証二頁三行ないし七行、同第一五号証三頁六行ないし七行)、「二重構造の回転槽1の両端を円形の回転ドラム5で支承する。また、槽下部にはモーター6を設置し、モーターのプーリー7をベルト8を介して回転ドラム5と連結せしめる。なお、9は槽自体を回転せしめるための伝導車、15は回転ドラム等回動体の支承ローラー、10は架台である。上記槽1は伝導車9を介してモーター等の回転駆動装置と連結され、独立して自転する」との記載(甲第五号証三頁五行ないし一一行、同第一五号証三頁一一行ないし一二行、甲第九号証一八行ないし一九行)、「モーター6を駆動させると、その力はプーリー7とベルト8を介して回動体5に伝わり、回動体は回転運動せしめられる。また、必要に応じて、伝導車9の作用により槽1自体をも回転せしめられる。」との記載(甲第五号証三頁一四行ないし一八行)及び「本考案は、……槽を回動体で支承し、この回動体とさらに必要に応じては、槽自体をも自転せしめる構成で、内装物は摺動、摩擦、流動また必要に応じて遠心回転流動されながら移動するので、迅速・円滑・確実に効率的な研磨加工を行うことができる。」との記載(甲第五号証五頁一三行ないし一八行)のあることが認められる。

以上によれば、本願考案が槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結する構成を採用した技術的意義は、槽本体が軸設された回動支持体(本願考案の要旨及び本願考案に関する前認定によれば、回動支持体は回動体と同義であり、また、回転ドラムがこれに相当することは明らかである。)と槽本体とをそれぞれ独立して回転させ得る構造とすることによって、槽本体の公転速度と自転速度とを無関係に独立して任意に設定することができるようにし、これによって迅速、円滑、確実に効率的な研磨加工を期するものであることが認められる。

(二)  第一引用例記載の考案における研磨槽の運動の態様

成立に争いのない甲第一二号証(第一引用例)によれば、第一引用例には「モーター10を駆動するとクランクアーム6a、6bが回転し、槽1は円運動を行なう。この場合、第4図に示すように、槽自体は回転しない。即ち、槽端の一点Aは常に上方を向いている。」との記載のあることが認められ(三頁一二頁ないし一六頁)、第一引用例記載の考案における研磨槽は、固定座標系からみて、公転はするが自転はしないことが明らかである。

(三)  第二引用例記載の考案の概要及び同引用例の開示内容

成立に争いのない甲第一三号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、考案の要旨を「フレーム1、2へ主軸3を架設し、主軸3ヘターレット4、5を固着し、ターレット4、5ヘバレルを取り付けるに当り、バレルの公転半径をRとし、バレルの内接円半径をrとしたときにrの異なるバレルを交換可能に取り付けられるようにするか、ターレット4、5へ主軸3に向って放射状に長溝16を等間隔に設け、この長溝16にバレルの軸18を挿通し、バレルの取付位置を任意に選定して軸受を固定し、公転半径Rを変化させるようにしてR/rを調節し、主軸、ターレットおよびバレルの軸ヘバレルを自転させる装置を付設してなる遊星旋回式バレル研磨機。」とする考案が開示されているところ(四欄一七行ないし二九行)、同考案は、公転数Nと自転数nとの値を一定にした時に、被研磨物の性質に応じ、バレルの公転半径R又はバレルのバレル軸に対する垂直断面におけるバレル内壁に接する円の半径rを調節し、最適のR/rを得る目的で考案した高速旋回式バレル研磨機に関するものであり、従来公知の遊星旋回式バレル研磨法ではバレルの公転半径Rとバレルの内接円半径r及びバレルの公転数Nと自転数nとは一定であり、これを変更することは考慮されていなかったのに対し、n/Nの値が一定の場合であってもR/rを変化することによって研磨能率が変化するのみならず、精密研磨又は重研磨に適するように設定することができるとの見地から、バレルケースの内側へ内接円半径の異なるバレルを着脱自在に取り付け、又はターレットの中心軸に対しバレル軸を離接自在に取り付けることによって、右条件を満足する機械の完成を図ったものであること(一欄二九行ないし二欄一一行)、同引用例には、同引用例記載の考案の実施例が第1ないし4図とともに示され、実施例の説明として「各実施例共に、原動機とギヤー13又は14とを運動させると、主軸3が回転し、これに伴ってターレット4、5、14、15が回転するので、ギヤー8、25、9とギヤー22、26、23の運動によってバレルケース10又はバレル17は自転する。従ってターレット4、5、14、15および各ギヤー8、25、9、22、26、23によってバレルは自転および公転をするのである。」との記載があること(三欄一七行ないし二五行)がそれぞれ認められる。

以上によれば、第二引用例記載の考案において、本願考案の槽本体に相当するバレルは公転するとともに自転もするものではあるが、本願考案の回転支持体及び槽本体に相当するターレット及びバレルは、共通する原動機の動力を受け、バレルの自転数と公転数の比はギヤー8、25、9又はギヤー22、26、23のギヤー比に応じて所定の値に設定されるものであり、槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結するものではなく、また、槽本体の公転速度と自転速度とを無関係に独立して任意に設定することができるものでもない。

なお、右甲第一三号証によれば、第二引用例には、R/r及びn/Nを変化させたときの研磨能率の変化を示す第5ないし第8図及びこれらの図を説明した記載(三欄二六行ないし四欄三行)の存在することが認められるが、右記載部分によっては、R/r及びn/Nの数値の変化が研磨効率等に一定の影響を与えることを理解し得るものの、この記載部分からは研磨作業を行うに際してn/Nの数値を変化させるための具体的手段を読み取ることはできない。そして、前認定の第二引用例記載の考案の目的からも明らかなように、同考案は、研磨作業を行うに際してR/rの数値を調節するものではあるが、n/Nの数値を変化させるものではないから、右記載部分をもって槽本体の公転速度と自転速度とを無関係に独立して任意に設定することの示唆があるものと解することはできず、また、第二引用例の全記載を精査するも、槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結する点、あるいは槽本体の公転速度と自転速度とを無関係に独立して任意に設定する点を示唆する記載は見当たらない。因みに、第二引用例記載の考案において、ギヤー8、9、遊びギヤー25の歯車比を変更することによってバレルの自転速度を希望する数値に設定することは可能であるが、いったん所定の速度で公転及び自転するように構成されてしまったバレルの自転速度を変更しようとすればバレルの公転速度を考慮しながら所定の自転速度になる歯車を選定して元から組み込まれていた歯車をこの選定した歯車に交換する以外になく、考案の目的及びその構成からみても、同考案はバレルの自転速度を公転速度とは独立して任意に変更することを想定するものではない。

(四)  本願考案の相違点一に関する構成の容易想到性

第一引用例及び第二引用例に示された考案は、以上のようなものであるから、第二引用例記載の考案における回動伝達機構を第一引用例記載の考案における研磨槽と回転するクランクアームとの間に介在させることを想定したとしても、共通する一つの回転駆動装置と、互いに連動する二つの回動伝達機構を有するものが予測できるに止まり、本願考案における槽本体と回動支持体とをそれぞれ独立した回転駆動装置と回動伝達機構とを介して連結しているという構成を極めて容易に想到し得たものと認めることはできない。

そして、本願考案がこのような構成を採用した技術的意義が槽本体の公転速度と自転速度とを無関係に独立して任意に設定することができるようにするということであることは前認定のとおりであるから、この構成を無意味な限定であるとすることもできない。

なお、被告は、本願考案の出願当初の明細書及び図面には槽本体と回動支持体をそれぞれ独立した駆動源である二つのモーターでそれらを駆動するものが示されていないことを根拠に、右構成の技術的意義を否定するが、仮に出願当初の明細書及び図面に記載されていなかった事項であっても、要旨変更等を理由に却下されることなく、適法な手続補正によって考案の要旨の一部となった事項については、その技術的意義は技術的見地のみから検討すべきであり、出願当初の明細書及び図面に記載されていないことのみを理由としてその事項の技術的意義を否定することは許されず、被告の右主張は理由がない。

4  以上によれば、本願考案は、その余の点について判断するまでもなく、第一引用例ないし第三引用例に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案できたものと解することはできず、本願考案の進歩性を否定した審決の判断は誤りであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は取消しを免れない。

四  よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

別紙三

<省略>

別紙四

<省略>

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